農村の風景を未来へつなげる「丹波畦師~たんばあぜし~」

執筆者:吉良佳晃

「草を刈る」
農村において、春から秋にかけてかなりのウエイトを占める仕事です。
が、これほど農家の仕事として(当事者を除けば)表舞台に上がってこない仕事はないかもしれません。

農家の仕事といえば??

田植え、稲刈り、野菜の収穫などがまず出てくるのでしょうか。
これらは全て田んぼや畑の圃場内での作物生産に関わる作業です。

一方で吉良農園のある中山間地域と呼ばれるエリアでは
圃場の周辺部の草刈り面積が多く、農業を営む上での環境保全に関わる作業です。

農業経営上では前者の仕事は直接売り上げにつながりますが、後者はコストとなります。

急な斜面「ワチ刈り」

またよく言われているように里山利用がなくなったことで、森は放置されているため
暗く鬱蒼と茂っており圃場のすぐそばまでシカやイノシシなどの大型野生動物の生息域となっています。
この森と圃場の間の急斜面を「ワチ」と呼び、圃場への日照確保やかつては資源であった草の確保
のため草刈りを行う場所でもあります。
ここでの草刈りはなかなかの重労働で危険を伴うところでもあります。
こういったエリアにおいては希少な植物・昆虫の数少ない生息場所となっていることもありますが、
草が繁茂している状態で放置すると、動物の隠れ場所ともなり獣がいが加速するという問題があります。

緑豊かに牧歌的に見える農村風景も、地道なお金にかわらない草刈作業があることで維持されている。
これを忘れてはならないと思います。

秋の七草のひとつ「オミナエシ」 
日本で最も小さなネズミ「カヤネズミ」の巣

農業者の担い手不足、高齢化により食糧生産もですが、農業の担ってきた環境維持に関するマンパワー
は非常に厳しいものとなってきています。
健全に農業を続けていけるように、その結果として農村風景が残っていくように草刈りを行う人材を
育成していきたい。
草を刈る音・感触、草の香りも心地よく、劇的ビフォーアフターのようにきれいになるのも
気持ちが良いもので、私自身は草刈り作業が大好きです。

ただ草刈り機の扱いには危険が伴いますし、境界の見えない農村では勝手に草を刈ることはできません。
そうしたハードルを越えていけるよう、「草刈り」を入口とした農業・農村への関わり、
参加される方々に楽しみのある農家だけに限らない新しい農業・農村を創りあげるプログラムを試作、考案中です。

刈払機(草刈り機)取り扱いに関する安全講習

「畦師~あぜし~」というネーミングは、庭師などの職人がいるなら草刈りにあってもいいのではないか?と
神戸大学東播磨フィールドステーションでのワークショップで見出されたものです。
農業の仕事の中に組み込まれていた草刈りですが、現在の情勢の中、生産と保全とを分離して
スポットをあてることで可能性が広がるのではないか。
10年先を見据えて、取組みは始まったばかりです。

草刈り刃の安全な扱い方実習

「丹波畦師~たんばあぜし~」は、農都宣言した丹波篠山市にあって草刈りを単なる維持コストと
見るのではなく、農業、生態系、文化など多面的な背景とそのつながりを知り、
草刈リスキルを身につけた一つの流派と位置付けています。
かつて酒造りにおける技能者集団であった「丹波杜氏」をヒントにしました。

農業と一言でいっても、地域により多様であるように草刈りもまた多様です。
それぞれの地域特性にあった様々な流派・チームが誕生し面白い農村を形作っていければと思います。
そのステップとなれるよう土台を構築していきます。

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2020年10月4日 丹波新聞に掲載されました