Organic World Congress 2024 in Taiwan の参加報告
少し前になりますが、2024年12月2~4日、有機農業世界大会(Organic World Congress:以下OWC)に吉良農園のスタッフ置塩ひかるさん(おきしー)が参加してきました。

大会の紹介動画(YOUTUBEより転載)
大会の公式HPはこちら https://owc.ifoam.bio/
主催団体であるIFOAMは有機農業の普及に取り組む国際NGOであり、ISO(国際標準化機構基準)から公式の基準設定機関として認定されています。 IFOAMが策定した有機認証の基準は、世界各国の政府や国際ガイドラインとして尊重され、日本の有機認証にも影響を与えています。詳しくはIFOAMのHPへ。https://www.ifoam.bio/
そのIFOAMが3年に一度開催する国際会議が、今年は台湾の南華大学にて開催されました。アジア支部の理事である方から会議を紹介され、これはチャンス!!と締め切りまでギリギリでしたが、私たちのコンセプトやこれまでの取組みを要約してエントリー、無事アクセプトされ発表する機会をいただきました。
今大会のメインテーマは“Cultivating Organic Solutions for True Sustainability”(本当の持続可能性に向けた、有機的視点をもった解決策の育成)であり、全体会と4つの分科会テーマに沿って進められました。
4つの分科会テーマは
1. Organic Culture and Lifestyle (有機的な文化とライフスタイル)
2. Knowledge and Practice Sharing (知識と実践の共有)
3. Growing Organic Markets, Rooted in Organic Principles (有機の原則に基づいた有機市場の拡大)
4. Policies for Scaling Up Organics and Agroecology (有機農業と農業生態系の拡大に向けた政策)
であり、吉良農園は 2. Knowledge and Practice Sharing (知識と実践の共有)に参加し、「A Multi-Stakeholder Approach to the Promotion of Organic Agriculture(有機農業の推進に向けた多様な利害関係者によるアプローチ)」というルームにて発表とディスカッションを行いました。吉良農園の発表タイトルは『Challenges for Nature Positive Agriculture in “Satoyama” (里山における自然再興農業への挑戦~)』です。
ここからは実際に会議に参加し、発表&意見交換を行ってきたおきしーからの報告です。

大会の開催地である嘉義市に着くと、商店街にOWCの幟が掲示され、駅近くにシャトルバスの停留所が設置されるなど、市を挙げての一大イベントであることが実感されました。大会初日には、会場に着いた瞬間から太鼓の演奏と華やかなフラワーロードに迎えられ、学校長、教員、学生が手厚く案内、歓迎してくださりました。
受付をし、身分証としてのQRコードと同時通訳用のヘッドセットを受け取ると、まずは700~800人ほど入るホールに入場。前半分ほどは来賓席となっており、EU、インド、フィリピン、アフリカなどのボードメンバー(IFOAM理事)、農水省や環境省にあたる組織の大臣、政策官といった役職の方などが参加されていました。後のアナウンスによると、60以上の国と地域から参加しているとのこと。多くの場合、一つの組織や団体から複数人で参加しており、参加者同士、過去の大会や関連する組織・活動・集会等でつながっていることが多いようでした。

開会宣言や祝辞、記念撮影といったオープニングセレモニーに始まり、台湾の元立法院院長のオープニングスピーチ。進行やスピーチは基本英語で行われましたが、台湾語(Mandarin)で話される方もおられ、その場合はヘッドセットを用いると英語での同時通訳が聞こえる、という仕様でした。反対に、ヘッドセットの別のチャンネルでは、常時英語から台湾語への同時通訳がされており、地元の方が参加しやすくなっていました。2日目に出会った台湾の女性は、英語は話せないけれど、近くで世界大会が開かれると聞いて参加した、とおっしゃっていて、ホスト国の一つのメリットを実感しました。
3日間の大会は、午前中にホールで全体会議(コーヒーブレイクを挟んで2セッション)、午後は各部屋に分かれて分科会(コーヒーブレイクを挟んで3セッション)という流れで行われました。分科会は、毎時間6~8つ行われている中から、自分の興味に合わせて選択し、教室を移動して参加します。3~4人の実践報告の後、質疑応答・ディスカッションに移るパターンや、あるテーマの下で参加者を含めて自由に議論を行うフィッシュボウルと呼ばれるスタイルなど、内容・進め方ともに様々でした。分科会終了後も、実践報告をした方と個別に話し込んだり、外に並んでいるブースで出店者の方とお話をしたり、買い物をしたりと、それぞれのスタイル、ペースで大会を楽しんでいました。

それでは、全体会議やプレゼン内容について、抜粋してご紹介します。
◎Plenary Session1(全体会議)
本大会のテーマである“Cultivating Organic Solutions for True Sustainability”(本当の持続可能性に向けた、有機的視点をもった解決策の育成)というタイトルで、企業家、大学教授、研究ディレクター、INOFO(有機農業者の国際ネットワーク)の代表などがクロストークを行いました。登壇者の自己紹介を通じて、それぞれの立場、視点の違いが明らかになった一方で、「有機農業の推進」という目的に向けて、直面している課題や難しさ、必要だと感じていることは共通している部分も多くあり、互いに共感し合っていました。中には、複数の立場・役割を掛け持ちしていたり、転向した経験があったりして、お互いの立場・言い分を尊重しながら話が進められていることが印象的でした。特に「現場で実践する人=農家」に対するリスペクトは、大会を通じて常に感じられ、INOFOの代表、Shamikaの発言「農家でない人に農家を代弁してほしくない」に語られるように、実践者である農家がこうした集会、政策決定や議論の場に参加することが重要視されているのを感じました。もちろん、農家が集まるとなると、気候や不測の事態への対応などにより、会議が遅れたり日程変更を迫られたりといった難しさがあることも、冗談を交えつつ明るく共有されたうえで、それでも必要だ、大切だ、と共有されている様子が印象的でした。
◎吉良農園の実践報告
『Challenges for Nature Positive Agriculture in “Satoyama” (里山における自然再興農業への挑戦~)』

初日の午後、最も早い時間に行われた分科会で、20人ほどが集まった教室で発表しました。メインメッセージは、里山における有機農業(営農そのもの)がネイチャーポジティブ(自然再興的)であるということ。前段としては、次のような流れでお話しました。
目的:里山を学ぶことで、持続可能な社会のヒントを得る
前提①持続可能なグローバル社会のためには、多様なローカルが必要である
前提②里山とは、長い歴史を持つ自然再興システムである
⇒したがって、里山を研究することは、持続可能な社会のための人と自然の関わり方のヒントになる
・里山とは何か?保護する対象ではなく、関わりを維持する動的なシステムであること
・なぜ、里山か?有限の資源をもつグローバル社会の縮図であること
「里山」という言葉については、教室の1/3ほどの方が聞いたことがあると答えてくれました。この前段では、吉良農園での日々の実践や議論から導き出されたポイントに、文献や国際機関の公式サイトで述べられていることを紐づけ、あくまでローカルにおける一例ではあるものの、それを共有・報告することの意義を伝えられるよう注力しました。
そして、里山を構成する3つの要素(資源、経済、社会)において、現状では(地域)資源と経済のつながりが弱くなっていることを指摘し、これらを接続する試みとして、吉良農園の営農と、協働プロジェクト(100人ではぐくむ名前はまだ無い日本酒)の紹介に入りました。

吉良農園の紹介:創立、栽培品種・出荷先、コンセプトなど
資源循環モデル:草刈り後の草利用(草マルチ、草木灰)、堆肥、ミネラルなど
=外部からの投入を最小限にし、地域資源の活用を最大化
具体例:かぼちゃの草マルチ(必要な草の量、所用時間、慣行栽培との収量比較)
販売モデル:成長段階に合わせた出荷、複数の部位、野草の維持・活用
=換金機会の多様化(但し、生態系のリズム、再生産の範囲内に限る)
協働プロジェクト「100人ではぐくむ名前はまだ無い日本酒」の紹介
米づくり、酒造りにとって欠かせない水源地の維持。農園、酒蔵、参加者がともにはぐくみ、新しいお酒が誕生。

こうした実践が、土地のモザイク利用、人による適切な関わりとして、この土地ならではの生態系、生物多様性につながっていること。つまり、営農(人間活動)が自然再興的であることを示しました。聞いてくださったみなさまの表情を見ると、最も伝えたかったこのポイントはしっかり届いたように感じました。一方で、地域資源の活用にフォーカスした実践紹介が、伝統的農法の継承、回帰の文脈を強く感じさせてしまったようにも思いました。残念ながらこのときは時間がなく、ディスカッションはできませんでしたが、その後、別の分科会では「古い中にある新しさ」「過去の知恵や経験に基づいて、方法を180度転換する」といったことが述べられていました。私たちも、過去を基準とした「再生」ではなく、これからの時代に合う新しい方法、可能性を広げていきたいと考えています。
◎OWC全体を通して
今回参加している方々の関心・活動は、本当に多岐に渡っていましたが、その中でも大きく2つの方向性が強く感じられました。それは、先住民をはじめとする伝統文化、暮らしに根付いた農法としての有機農業の継承・保護・回帰と、農家の所得向上や市場開拓・市場獲得といったビジネスとしての有機農業の推進です。この二者は、全体会議では均等に取り上げられ、共通のテーマのもとに登壇する機会もありましたが、本質的に混ざり合うことはないように感じます。一方で、環境や生物多様性、教育・福祉・健康、観光といった目的に対する手段として有機農業を研究、または実践している方々は、先の二項対立を自覚的か無自覚的か、時には傾倒したり時には上手に利用したりしながら、実質的に有機農業を推進しているように感じられました。吉良農園も、おそらくその一例です。普段、活動に邁進していると思考や視点が蛸壺化してしまいますが、こうして全体を俯瞰できたこと、世界中の実践者と交わり、知見を得られたこと、そして、自分たちの活動を客観視できたことが、今回参加した大きな意義となりました。
持続可能な社会というお題に対して、何か一つの解があるはずはなく、ただ各地で想いを持った方々が今日も実践を続けている、そのことが何よりもの価値であり、唯一の方法だと感じました。
最後に、本大会でお出逢いした伊能さん、高橋さん、吉田さん、その後のオンライン報告会等でも大変お世話になりました。実は一人で心細かったところ、みなさまの温かさに心ほぐされ、より学び多く、楽しい時間を過ごすことができました。参加のきっかけをくださった福井さん、心より感謝申し上げます。
今回、吉良農園を代表して発表しましたが、その内容は、先代からの蓄積があったからこそ。その一員であることを誇りに、これからも吉良農園チームで紡いでいきます。
以上、おきしーからの報告でした!
インタビューを受けた時の様子がこちらにアップされています。
日本農業新聞にも取材いただき、一部記事にしていただきました。
<最新>世界の有機農産物ずらり 台湾の有機大会 野外に販売ブース / 日本農業新聞
(閲覧にはログインが必要のようです)
実践に勝るものはなし。
小さな農園ですが、現場からの発信を大切にしていきます。
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『土』から『口』まで、より『良』きつながりを。
私たちは丹波篠山にて、「里山における有機農業」を実践するクリエイティブチームです
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